これまでの人生で影響を受けた本が何冊かあるのですが、村上春樹さんのエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』もそのうちの一冊です。

気候の良いハワイでランニングをしながら、原稿を書く。彼のシンプルなライフスタイルに、会社員生活を送っていた当時のぼくは強烈に憧れました。

「いつか必ず、フリーランスのライターになろう」

数年が経ち、それが実現しました。今、ワイキキビーチのカフェでこの原稿を書いています。

ところで、前述の本に著者がホノルルマラソンを走ったエピソードが登場します。その話にも影響を受けて、ホノルルマラソンに初出場してきました。今回はそのレポートをお届けします。

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真っ暗な朝5時のスタート

今回のホノルルマラソンは、元フィギュアスケーターの浅田真央さんが出場するとあり、秋頃から話題になっていました。記者会見で「4時間30分を切りたい」とコメントしていたのにつられて、それがぼくの目標タイムになりました。

以前はよく走っていたのですが、最近はまともにランニングができず、ちゃんとした練習は本番一週間前の20km走一度きり。この練習不足からしても割と妥当な目標タイムだと思いました。

ホノルルマラソンで驚いたのは、スタート時間が早朝5時ということ。朝日が昇ると猛烈に暑くなるため、夜が明ける前の涼しい時間帯にスタートするのです。前日は夜9時にベッドに入ったのですが、緊張でなかなか寝付けず、結局3時間しか眠れませんでした。

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スタート地点のアラモアナ公園には、大勢の人が集まっていました。今年のフルマラソン参加者は26,371名。うち半数弱にあたる11,727名が日本人なので、いかに日本人にとって人気のマラソン大会であるかおわかりでしょう。

スタートの号砲とともに、何度も花火が打ち上がりました。寝不足による不安はありましたが、走り始めてみると意外に足は軽く、また他のランナーたちの勢いにも背中を押され、最初の10kmを1時間ジャストで走れました。

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「このまま頑張れば4時間10分くらいでゴールできるかもしれない」

と調子に乗ったのが過ちでした。21km地点を2時間4分で通過と、そこまでは順調なペースで走れていたのですが、22km過ぎから一気に足首やふくらはぎが痛くなり、見事なまでに失速。1km10分近いペースまで落ちてしまい、ひたすら後方からのランナーに追い抜かされて、4時間台でゴールできるかも怪しくなってきました。

マラソンは我慢が重要です。わかっていたつもりでも、初心者なので勢いに呑まれてしまいました。しかし、そんなアクシデントも幸運に変わりました。

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レース終盤、浅田真央さんと合流

なんとか耐えながら走っていると、痛みにも慣れてきて、ほんの少しずつペースを取り戻せてきました。

28km地点の給水ポイントでは、ボランティアスタッフに紛れ込んでいた俳優の佐藤隆太さんからお水をいただく場面も。

そして30km地点。後方から大きな歓声が聞こえ、振り返るとすぐ横に浅田真央さんがいました。あの国民的スターの「真央ちゃん」が、自分と一緒に走っているのです。その夢のような出来事に元気が出てきて、「キツくても絶対に付いていこう」と決意しました。

ラスト10km地点では、金メダリストの高橋尚子さんが応援に登場。その他芸能人もたびたび沿道から真央ちゃんに声をかけていました。あとは反対車線のランナーたちが途切れることなく「真央ちゃん頑張れ〜!」と声援を送っていて、そのたびに手を振って応えていて、眺めているこちらにとっても気持ちの良い光景でした。

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さすがにラスト3kmの登り坂は、真央ちゃんもキツそうでした。ぼくもキツく、一時100メートルほど離されてしまいましたが、ゴールまでラスト200メートルのところで追いつき、一緒にゴールすることができました。

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タイムは、4時間34分30秒。4時間半は切れませんでしたが、寝不足だったことや、途中で足がやられたことを考えると、よくここまで頑張れたなと思います。真央ちゃんのおかげで、結果的にとても楽しくレースを終えました。

ホノルルマラソンは制限時間がなく、普段ランニングをしていない方でも気軽に楽しめる大会です。旅行の思い出作りに、ご家族や友人と参加してみてはいかがでしょうか。

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思えば、村上春樹さんのあの本に出会っていなければ、ぼくはハワイにも来なかったかもしれないし、今も会社員のままだったかもしれません。人の運命は誰にもわからないのですが、ビーチに沈む美しい夕陽を眺めながら、人生の不思議さを感じています。

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